研究開発部 深澤です。「R&D化学ネタ」今回は、私が参加しポスター発表したACS Spring 2023の講演から注目した内容をご紹介します。”Nirmatrelvir (COVID-19 治療薬)”です。
Nirmatrelvir (PF-07321332, 1) はPfizer社が開発したCOVID-19 治療薬です。FDAからは2021年12月に緊急使用許可が出され、日本では2022年2月に特例承認されました。日本では、商品名”パキロビッドパック”として販売されています。
COVID-19は、2019年12月に中国の武漢で発見され、約2年後の2021年11月には、早くもPfizer社よりNirmatrelvir (1) の第I相臨床試験の結果が公表されました1。
2020年7月に実験室にて最初の合成が達成され (mgスケール)、わずか17ヵ月後の2021年12月には、数百kgスケールでの商業生産にまで漕ぎつけています。
二環式ピロリジン誘導体5の塩酸塩とBoc保護されたアミノ酸6とのHATUを用いた縮合により、アミド7を得た後、メチルエステルの加水分解及びBoc基の除去によりアミン8の塩酸塩を得ます。続いて、トリフルオロ酢酸エチルを作用させ、トリフルオロアセトアミド9へと変換した後、4の塩酸塩との縮合により、アミド10を得ます。最後に、C末端アミドのBurgess試薬を用いた脱水反応の後、MTBEと酢酸エチルの混液から結晶化させることで、Nirmatrelvir (1) のMTBE和物を得ます。そのMTBE和物をIPAc/heptane混液から晶析させることで、Nirmatrelvir (1) が得られます。
Nirmatrelvir (1) が、COVID-19の治療薬として使用できる見込みが立ったため、実製造に適した合成法を検討することになりました。
実製造では、上記の合成経路よりも収束的な経路を選択しています。すなわち、上記で使用していたBoc保護されたアミノ酸6の代わりに保護基の変換が必要とならないトリフルオロアセチル基で保護されたアミノ酸11を使用することとし、3つのフラグメントからNirmatrelvir (1) を合成する経路へと変更しています2。
出典
1 Science, 2021, 374, 1586-1593
2 ACS Cent. Sci., 2023, 9, 849–857
次回は、この3つのフラグメントの合成経路をご紹介します。