研究開発部 深澤です。「R&D化学ネタ」今回も引き続き、”Nirmatrelvir (COVID-19 治療薬)”のご紹介です。
今回は、Nirmatrelvir (1) を実製造する際に使われる3つのフラグメント1のうち、保護アミノ酸11とアミン4の塩酸塩の合成について紹介します。
保護アミノ酸11の合成
保護アミノ酸11はt-ロイシンにトリフルオロ酢酸エチルを作用させることで、簡便に合成できます2。
アミン4の塩酸塩の合成
グルタミン酸誘導体27のジアステレオ選択的なアルキル化により、ニトリル28へと誘導します。続いてニトリルの還元に続く分子内環化によりラクタム2が得られます。2はクロマトグラフィーにより精製することも可能ですが、トシル酸によるBoc基の除去を実施し、アミン29のトシル酸塩とすることで、クロマトグラフィー精製を回避することができました3。
ラクタム2に関しては、これまで商業生産されたことはありませんでしたが、これまでの成果を生かして外部の製造業者への技術移転をスムーズに実施できたそうです。
得られた29は、2003年にSARS CoV-1に対する治療薬の開発研究の中で見つけられたプロテアーゼ阻害剤の重要な部分骨格の一部でした。そのため、基本的な合成経路は、その時の知見が生かされており、残りは29から4への変換のみとなります。外部の製造業者では、2つの合成経路で4の塩酸塩を製造しています。1つは、アミノ基をBoc保護した後、メチルエステルをアミドへと変換し、Boc基を除去する合成経路 (Route A) で、もう1つは、直接29から4へと変換する合成経路 (Route B) です1。
なお、これまで述べた3つのフラグメントは、外部の製造業者によって合成されています。
出典
1 ACS Cent. Sci., 2023, 9, 849–857
2 WO2021250648A1
3 Org. Process Res. Dev., 2023, 27, 78–83
Nirmatrelvir (COVID-19 治療薬) のR&D化学ネタ、最終回は、Nirmatrelvir (1) の現在の合成方法について紹介します。