HAMARI Stories

SOL-PJ 新規なアミノ酸構築法を求めて

難航する「新規なアミノ酸合成法の開発」

新規なアミノ酸構築法を開発したい。
これは、アミノ酸からなるペプチドを主要製品として扱うHAMARIにとって、長年にわたる重要なテーマです。この研究は、2003年から2004年にかけてBelokon錯体を用いて検討されましたが、その物性・選択性および特許性に問題を抱えていたため、結局、この開発は半年ほどで中止されました。

“太陽”との出会い

5年後の2009年、井澤邦輔顧問(当時)から、Belokon教授のかつての共同研究者、Vadim A.Soloshonok先生を紹介され、5月に柴島本社で最初の講演会の開催が実現しました。講演ではBelokon錯体に関連するNi(II)錯体を活用したアミノ酸の実用的合成法が紹介されました。その後、2回目の講演会(2010年3月)も開催され、その折に髙美時郎社長(当時)がSoloshonok先生にHAMARI研究員の留学受入れを打診し、これを機にその実現へと準備が進んでいきました。

Soloshonok先生と髙美 時郎
Soloshonok先生と髙美 時郎

その後の紆余曲折を経て、留学先はNew York州立大学Stony Brook校の尾島研究室(当時Soloshonok先生は客員教授として在籍)に決まり、2010年10月からHAMARIの研究員による初の米国留学が実現しました。この留学期間中、世界トップクラスの研究室での交流に刺激を受けながら、Soloshonok先生の指導の下、独自のNi(II)錯体を用いるアミノ酸合成法の基礎研究に取り組みました。
米国留学を終えた研究員の帰国後、2011年11月、現地での研究を実用へと展開させるために、非天然型アミノ酸の新規合成法の開発をテーマとする”SOLプロジェクト”が誕生しました。プロジェクト名(SOL)は、共同研究者であるSoloshonok先生の名前とスペイン語1)で太陽を意味する ”sol”に因んで命名しました。青空に輝く太陽のようにHAMARIを照らし、恵みある成果が得られるようにとの願いを込めています。

若手研究員の苦闘

プロジェクトメンバーに選ばれたのは、精鋭の若手研究員2名。アミノ酸合成研究をリードしてきたSoloshonok先生から直接指導を受けたのは幸運でしたが、やり取りは当然”英語”。報告書は毎週英文で提出、毎月のオンラインミーティングでは英語でのディスカッションが義務付けられ、研究員たちは悪戦苦闘。先生からは「Hurry Up!」、「Did you check TLC ?(大事な副生物を見逃してないか?)」、「What’s conclusion?」と研究への厳格さを求められ、他方で、経営陣からは”そのPJはいつ利益を生むのか?”とのし掛かるプレッシャー。そのような状況にあっても、「How’s going, guys?」とメンバーに気さくに接し、暖かく照らし見守る、太陽のような先生の人柄に励まされ、研究員は情熱を絶やすことなく開発研究に打ち込みました。

ミーティングの様子
breaktime

質・量ともに充実した成果

発足の翌年、メンバーに1名の新入社員を加えた3名で、アミノ酸立体配置の反転反応について鋭意検討を重ねていました。ある時、代表的なアミノ酸での反応生成物を分析していたところ、先行文献を凌駕する変換効率が観測されました。ようやく得られた有望な結果に報われてメンバーは一気に活気づき、その後の研究へと展開していきました。そして、2012年12月にはじめの成果を特許出願しました。本特許の技術により、アミノ酸の立体化学を容易且つほぼ完全に制御することが可能です。この成果と補足データを論文にまとめ、権威ある国際的学術誌の一つ(Angew. Chem. Int. Ed.) に発表しました。
その後も2013年5月には更なる成果を特許出願、論文も継続して投稿し、2013年〜2021年9月までの間に総計71報に、学会発表は国内外を含め13回にのぼりました。

Symmetry 2021 Best Paper Awards
Symmetry 2021 Best Paper Awardsを受賞

ビジネス化と人的交流

この新たな技術(SOL技術)をどうビジネスにつなげるか?企業の研究開発では常に考えなければなりませんが、本プロジェクトではスケールアップが課題でした。プロセス改良を継続的に行い、スケールアップに伴う反応遅延や乾燥時間延長、残留溶媒の問題を解決しながら、2019年8月、ついにSOL技術によるテーラーメイドアミノ酸2)の10 kg製造を達成しました。また、少量多種のテーラーメイドアミノ酸の受託合成ビジネスにも取り組みました。
さらに、2019年7月 山形大学のご協力のもと、テーラーメイドアミノ酸に関する国際学会を開催しました。特許・論文・ビジネスなど形ある成果に加えて、国内外の研究者と交流が持てたことは、HAMARIの今後の研究開発に大きな力となるにちがいありません。

CPHIWW
CPHI WW(2015年)

第54回ペプチド討論会
第54回ペプチド討論会(2017年)

Hamari Conference on Tailor-made Amino acids
山形大学での国際学会(2019年)

脚注

  • 1) Soloshonok先生は当時スペインの大学に在籍していた。

  • 2) テーラーメイドアミノ酸 = 目的に応じて合理的にデザインし合成されたアミノ酸。

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